- トップ
- 指導と評価
特集
集団で学ぶ意義
★日本の子どもたちは、学校で、学級という集団での学習を通して、学力も社会性も身に付けていく。「集団で学ぶ」活動は「集団学習」とも呼ぶが、それは大正新教育の時代から実践されてきた。
★集団学習は、「新しい学力観」の登場によって再び脚光を浴びている。「他者との対話」が関心・意欲や思考・表現力などの育成に有効であることが再認識された。他者の意見を尊重し協力する態度や合意形成など、子どもたちの社会性は年々弱体化しているが、それを育成する点でも再評価されている。
★2002年度より小・中・高校に導入された「総合的な学習」は、人と人、人と物の間の関係性の理解を通して「知の総合化」をめざすものである。「集団学習」の視点から見直すことにより、さらなる成果が期待できる。
協力学習の最近の傾向 -アメリカを中心に
★協力学習は、1920年代に盛んになり、1970年代に加速し、さらに今日、競争より共生へといった社会の変化を反映し、その役割が見直されている。
★協力学習には、二人一組で相互に教え合う方式から数人のグループで協力し合う方式までさまざまな方式が工夫されている。
★協力学習では、社会的情緒的な面だけでなく認知的面の向上をもめざし、グループとしての進歩だけでなく、個人の役割・責任を重視し、個人の進歩をも見ようとしている。
学習集団による学びの拡張と学ぶ主体の形成
★現在、授業の多くが教師から子どもへの正答理解の仕方にかかる一切の伝達授業や、他との相互作用のない個別・個人学習になっている。学びは一人一人でも可能であるが、確かで豊かな学びは他者や集団との相互作用や相互関係の中でも達成される。
★そのような状況の中で学習集団の形成が注目されている。それは単なる小集団学習のような学習形態ではない。学習集団は優れて関わり合い・学び合うなかで、確かで分かる授業や学びの創造を目指すものである。それを通して学びの拡張や学ぶ主体の確立も期待されるのである。
★学習集団のもつ機能を十全に発揮させることで、今日の子どもの現状を克服するような学びが可能となり、学力と人格の両面にわたる好影響が表れる。
学習集団を育てる授業スキル
★授業は、次の3つの構造と各要素をトータルバランス良く教師が対応できると、子どもたちにとって学びの多いものとなる。
1.教科教育スキル(教科の特性を生かす、教材の工夫など)
2.授業の「構成スキル」×「展開スキル」
3.学級集団の状態(子どもたちの個々の特性×子どもどうしの関係性×発達段階)
★1.2.3.のうちどれが一つ欠けても、よりよい授業は成立しないが、特に3.は1.2.の前提ともなる。したがって、学級集団の状態のアセスメントは、授業スキルの発揮のポイントになるのである。教師にはQ-Uなどの学級集団の状態をアセスメントする方法を取得しておくことが求められる。
Q-Uを活用した学級育成
★学級集団の育成には、学級を構成する児童生徒個人の援助の側面と、学級集団の相互作用や関係性を育てる援助の側面がある。どちらの側面の援助にも、アセスメントに基づく、状態にマッチした対応が求められる。
★Q-Uでは、1.児童生徒個人の学級生活満足度 2.学級集団の状態 3.児童生徒個人と学級集団との関係が把握できる。
★これらのアセスメントに基づいて、学級全体への予防・開発的な援助(一次的教育援助)、学級全体の中で配慮の必要な児童生徒への個別の援助(二次的教育援助)、援助ニーズをもつ児童生徒への個別援助(三次的教育援助)をあわせてバランス良く行っていくことが、学級集団の育成につながる。
個のこだわりを大切にしながら多面的に追究する社会科学習
★単元の学習方法・学習内容を、一人一人の個のこだわりに基づいて多面的に追究する問題解決的な学習を、小学校第五学年の「日本の農業」の学習で展開した。
★その際、子どもたち自身で選択して取り組む多種多様な学びをベースjに、グループでの話し合い活動を取り入れた。
★自分の意志により選択することで、子どもたちは問題意識をより明確にするとともに、学習の見通しをもつことができた。そして、個々の学習問題の解決に適した方法で追究して得た知見をグループ内で交換することにより、日本の農業の特色を追究することができた。
「協同の学び」を中心にした学校改革と校内研修
★人間関係づくりがうまくできないことが、今の子どもたちの大きな課題である。教育改革はこの問題から出発すべきである。互いに自分の感じ方・考え方を話し合い学び合う「協同の学び」へと、授業のスタイルを変えていく必要がある。
★そのためにまず、授業研究会での話し合いの視点を変える。教科の壁を越え「どのような工夫で学び合いを成立させるか」を重点に授業研究をする。
★今後、校内研修は、学校改革の柱として大変重要になる。研究主任は、学校改革のリーダーとして重要な鍵を握るであろう。
授業で学び合う学習集団を育てる
★構成的グループエンカウンターの手法を教科の学習等に取り入れ、教科のねらいの達成と同時に、人間関係づくりを目指している。
★ウォーミングアップ、教科のねらいに合わせたエクササイズ、シェアリングの三点を学習過程に位置づけ、工夫していくことで、学習の効果をより高めていきたいと考えたのである。
★エンカウンターの手法を生かした授業を展開することによって、学級内の人間関係が円滑になるとともに学習意欲が高まり、教科のねらいが達成しやすくなった。
連載
小学校算数の基礎・基本の指導と評価(16) 計算について考える(5)-計算練習をしながら育てたいこと | 元筑波大学附属小学校教諭 正木 孝昌 |
---|---|
学習意欲のとらえ方・育て方(6) あなたも動機づけの達人 | 応用教育研究所理事長・筑波大学名誉教授 櫻井 茂男 |
問題解決能力とその評価(6) 問題解決能力を育てる学習と評価 | 教育評価総合研究所代表理事 鈴木秀幸 |
ドリルについて考える(6)無理・無駄のない効果的なドリルを求めて(2) 手抜きと工夫の違い(2)計算ドリル | どんぐり倶楽部 代表 糸山 泰造 |
豊かな心と確かな学力の育成(4) 教育相談とグループエンカウンターを柱に互いに認め合い高め合う人間関係を育む | 前神奈川県茅ヶ崎市立鶴が台中学校教諭 加納 洋道 |
どうする?小学校英語(10) 英語活動と英語学習の違いってなに? | 国立教育政策研究所名誉所員・2014年度戸田市英語教育運営指導委員会委員長 渡邉 寛治 |
だんわしつ | 国立教育政策研究所総括研究官 山森 光陽 |
ひとりごと | 元公立中学校教諭 吉冨 久人 |