月刊誌 指導と評価

2005年 6月号
  1. 2005年 6月号 Vol.51-06 No.606  定価:450円
特集
学力問題を考える(1)国際学力調査を中心に
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特集

最近の主な学力調査の動向について

文部科学省初等中等教育局教育課程企画室室長補佐  井上 卓己

★文部科学省では、教育課程の基準や学習指導の改善等に役立てるため、小・中・高等学校について「教育課程実施状況調査」、「特定の課題に関する調査」、研究指定校による調査など、各種調査を実施している。また、我が国は、OECDやIEAが実施する国際的な学力調査にも参加している。

★いわゆる「学力問題」の議論の中では、学力に関する客観的なデータが少ないことが問題点として指摘されており、中央教育審議会における今後の教育課程の基準の改定の審議に当たっては、本稿で説明した各種学力調査の結果とその分析結果がこれまで以上に重要な意味をもってくると思われる。

PISA調査の進め方と2003年調査結果の概要

国立教育研究所国際研究・協力部長  渡辺 良

★OECDの生徒の学習到達度調査(PISA)の2003年調査の結果が平成16年12月に公表された。2003年調査は、「数学的リテラシー」を中心に、「読解力」「科学的リテラシー」「問題解決能力」の4分野について、OECD加盟30か国を含む世界41か国・地域の15歳児を対象に、これまで習得した知識や技能を活用して将来の生活にかかわる課題を解決していく能力がどれだけ身についているかを調査した。

★日本は、前回2000年調査同様、全体として国際的に上位にあるが、読解力については前回より低下していること、また学習に対する意欲に欠け、動機付けが弱いといったことなどが明らかとなった。

PISAの基本を確認するー調査の枠組みや得点解釈の方法に関する素朴な疑問について

東京大学大学院  村山 航

★PISAの結果公表後、その結果に関する議論はさかんだが、その「調査の枠組み」や「得点解釈の方法」に関する理解は、十分とはいいがたいと思われる。本稿では、こうし調査の枠組みや得点解釈の方法に関する4つの素朴な疑問を取り上げ、解説する。

★具体的には、「PISAの「1点」はどのくらいの大きさなのか」、「全数調査でないのに、各国の得点を推定できるのか」「前回と違う問題で、前回との比較ができるのか」「日本人の意欲が最下位レベルというのは本当か」という疑問に答えることを通して、PISA調査の基本的部分の理解を深めていく。

TIMSS2003の結果「算数・数学」

元玉川大学教授  瀬沼 花子

★平成16年12月15日に、25か国・地域の小学校4年生、46か国・地域の中学校2年生が参加した「国際数学・理科教育動向調査の2003年調査」(TIMSS2003)の調査結果が公表された。

★わが国の小学校4年の数学の結果は、順位、平均得点、同一問題の平均正答率、得点が上位の児童の割合のいずれも、前回調査の1995年と比べて変化はなかった。中学校2年の数学については、平均得点の順位は5位と前回調査の1999年と変わらなかったものの、平均得点、同一問題の平均正答率、得点が上位の生徒の割合を比較すると、いずれもやや低くなっていた。

★算数・数学の勉強がとても楽しいと答えたわが国の児童・生徒の割合は、国際的にみると低い水準であるが、前回と比較して増えた。

TIMSS2003の結果「理科」

国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部長  猿田 祐嗣

★1995年から4年おきに実施された国際数学・理科教育動向調査の2003年調査は、約50か国・地域の第4学年および第8学年の児童生徒が参加して、2002年度末(各国の学年末)に実施された。

★理科問題のわが国の結果は、小学校4年および中学校2年ともに、平均得点は国際的にみて上位に達しているが、小学校4年の平均得点が1995年と比べ若干低下した。中学校2年の平均得点は1995年および1999年と比べ、ほとんど変化していない。

★理科の勉強がとても楽しいと答えるわが国の児童生徒の割合は増えたが、国際的にみると依然として低い水準である。

PISAとTIMSSの結果をどうとらえるか

上智大学名誉教授・日本個性化教育学会会長  加藤 幸次

★国際学力比較調査にこれほどまでに影響を受けようとは思いもよらなかった。いまだ調査には解決しなければならない技術的な問題があり、かつ、調査項目が「世界基準」として君臨するほど認知されているわけではないのに、である。しかも、順位だけが一人歩きし始め、国の教育の根幹たる学習指導要領の改訂が視野に入って入ってしまったのである。

★日本も、このことを意識し、積極的に学力の「ワールド・スタンダード」作りに参加すべきである。それこそ国際学力比較調査の調査項目作成に、日本という立場から、いいかえると日本としてしっかりした「学力観」をもって、参加すべきである。世界は情報化社会に突入し、ますます国際化しつつある。こうした世界の実態を自ら取り入れた学力観を確立し、参加すべきである。

PISAの出題の工夫「読解力」

国立教育政策研究所総括研究官  有元 秀文

★2003年のPISA調査では、記述式問題で、

1.文章を正確に読んで、

2.書かれたことを根拠にして、

3.自分独自の解釈や意見を述べる問題の正答率が低く、無答率が高い。

また、文体について評価・吟味させたり文章内容について批判させたりする「批判的読み」の問いの無答率も高い。

★このような力を育てるためには、まず、読書量を増やし、次に、国語科をはじめ各教科で、読書したことについて意見発表し、建設的に批判し合って討議する機会を増やす必要がある。また、総合学習などで、フィンランドや欧米諸国でよく行われる、図書資料や雑誌・インターネットなどの文字情報を活用して、発表し討論して課題解決するプロジェクト学習の機会を増やす必要がある。

PISAの出題の工夫「数学的リテラシー」

静岡大学教授  長崎 栄三

★数学的リテラシーの問題は、学んだ数学がどの程度現実世界で使えるのかをみようとするものである。

★数学的な内容、数学的プロセス、数学が用いられる状況、という3つの側面から特徴づけられている。数学的な内容は、「量」「空間と形」「変化と関係」「不確実性」の4領域からなる。数学的プロセスは「再現」「関連づけ」「熟考」の3クラスターからなる。数学が用いられる状況を表した問題場面に特徴がある。

★考え方や理由を記述する問題が多い。

★問題は、一般には文章が長く、写真やイラストも豊富で、解決に際しては、公式一覧が与えられ、電卓を使っても良い。

PISAの出題の工夫「科学的リテラシー」

国立教育研究所科学教育研究センター統括研究官  小倉 康

★「科学的リテラシー」は「自然界及び人間の活動によって起こる自然界の変化について理解し、意志決定をするために、科学的知識を使用し、課題を明確にし、証拠に基づく結論を導き出す能力」と定義され、その測定を目標として調査問題が作成された。

★科学的リテラシーの多様な側面を分析的にとらえ、それぞれの側面に関連づけた問題を作成するとともに、問題全体で各側面をバランスよく測定できるように、「科学的知識・概念」「科学的プロセス」「科学的状況・文脈」という三つの側面から科学的リテラシーがとらえられた。

★わが国で評価の4観点に対応した問題作りが普及しつつあるが、PISAの調査問題にも同様の多面的でバランスのとれた出題の工夫がみられる。

PISAの出題の工夫「問題解決能力」

元玉川大学教授  瀬沼 花子

★平成16年12月7日に、41か国・地域の15歳児が参加した「OECD生徒の学習到達度調査の2003年調査」(PISA2003)の調査結果が公表された。

★PISA2003においては、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーに加えて、問題解決能力についても調査された。ここでいう問題解決能力とは領域横断的な能力を意味し、具体的な評価問題の作成にあたっては、「意志決定」「システム解析・設計」「トラブル・シューティング」の3つのタイプに焦点が当てられた。

★わが国の問題解決能力の平均得点は547点で4番目に高く、韓国550点、香港548点、フィンランド548点と統計的な有意差はなかった。生徒の習熟度を高いほう(レベル3)から低いほう(レベル1未満)へ分けると、レベル3の割合が最も高いのはわが国であった。

連載

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