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特集
「新しい評価」と思考力、判断力、意欲
★「確かな学力」が提唱され、学力保障に関心が集まり、学校では学力テストが行われ、ドリルや暗記重視の学習が復活している。しかしこうしたテストや学習だけでは、「自ら学び、自ら考える力」すなわち思考力・判断力・問題解決能力などは評価できないし、育たない。
★欧米でも、1980年代に思考力・判断力・問題解決能力といった高次の技能が教育目標と考えられるようになり、伝統的なペーパーテストの問題点を克服するような「新しい評価」が提案された。それがポートフォリオ評価、パフォーマンス評価、オーセンティック評価である。
★思考力・判断力・問題解決能力などは、ペーパーテストで評価するよりも、実際に使う場面にできるだけ近い状況でできるかどうかを評価する方がよい。
★しかし、「新しい評価」には、時間がかかる、評価基準が難しい、などの問題点がある。「新しい評価」を用いる場面を厳選し、伝統的なペーパーテストと補完的に考え使用するのが現実的であろう。
総合的な学習でポートフォリオ評価
★生涯学習体系における学校教育の役割上、「総合的な学習」は重要な位置を占める。その「総合的な学習」におけるポートフォリオ評価の意義は、自己評価能力を向上させメタ認知能力を育むというものである。
★ポートフォリオ評価は、これまでの共同性や協力性、過程性や具体性、集積性や選択性において成果があった。今後は、評価指標の設定性や明示性、綴りの逸話性や記録性が課題である。とりわけ数的な評価が困難な「総合的な学習」では、教師の鑑識眼を高める評価研修に基づいた「評価事例集」の作成が重要である。
評価規準と評価基準表の段階的導入を
★教師が子どもの教科学習を評価するだけではなく、子ども自ら学びを評価してこそ意欲も生まれ、次なる学びにもつながる。
★そのために、小学校低学年では、教師は、子どもに簡単なめあてを持たせて、学ぶ過程で生まれた学習物等をファイルさせ、互いに見せ合って振り返らせる。
★小学校中学年でも時間的余裕があれば可能だが、高学年になれば、子どもの学習物を振り返ったり、望ましい学習結果を想起させながら評価基準創りをさせて、そこから教師が評価基準表を作り、子どもに知らせる。
★中学校になれば、教科目標から評価基準を引き出したり、発表の仕方などに焦点化した一般的な評価基準を導入し、子どもにも証拠となる学習物を添えて絶対評価させるのがよい。
教科学習におけるパフォーマンス評価
★全国的に展開されている学力調査の中から、学力評価の方法についての関心が高まりつつある。つまり、問題づくりとは、学力の質や構造をどのように構想するのかと不離一体の行為なのである。このような自覚のもとに、作問法や「情報過多か情報不足の課題」などの興味深い取り組みが進んでいる。
★パフォーマンス評価とは、解答を一義的に決めるのではなく、ある制約を想定して解答を絞り込ませるといった、かなり高度な評価方法である。したがって、そこでの評価基準としてはルーブリックが採用されている。どのような評価方法によってどのような学力の質や構造が浮かび上がるのかを常に意識して、評価方法の選択を行うべきだろう。
理科におけるペーパーテストとパフォーマンス評価
★評価の内容は、しばしば学習の方向性を示す役割を演じる。評価事項が学習目標と同一視されるからである。これと同時に、評価方法もまた学習方法に枠をはめる役割を演じる。なぜなら、評価されるときと同じ方法で学んでおく方が、実力を発揮しやすいからである。
★入学試験をはじめとして、学校での評価の大半はペーパーテストで占められている。これを徹底すると、必然的に児童・生徒の学力を「書くこと」のみに対応したものに導くことになる。しかし、評価の一部に、実際に何かを実行させるパフォーマンス評価を加えれば、児童・生徒の学力は、実際の問題解決場面で実行可能なものに近づくようになる。
英語におけるペーパーテストとパフォーマンス評価
★英語科の目標は実践的コミュニケーション能力の育成である。この能力は「情報や相手の意向などを理解」することや、「自分の考えなどを表現」することができる能力である。
★この能力を育成するには、教室で実際に情報や相手の意向を理解したり、自分の考えなどを表現するような「コミュニケーション活動」を行う必要がある。
★このような活動は、実際に英語を言葉として使うものなので、その評価には「パフォーマンス評価」が適切である。
★一方、従来のペーパーテストは、ドリル活動での言語材料の定着度を測定する場合には依然として有効である。ただし、読むこと書くことの技能を測定するには、ペーパーテストの内容を見直す必要がある。
思考・判断を育てるエッセンシャル・クエスショントパフォーマンス評価
★剥落しない学力、社会で生きて働く思考力・判断力を学校でも育てなければならない。そのためには、学校でも実社会性のある「すぐには解答のでない」問題に取り組むのがよい。対立する見解も含めて、自説の根拠を吟味しながら、問題の把握や解決策を深めていく過程が大切である。教科の中心概念を生活に関連した問題を通して、時間をかけて学ぶ。
★こうした思考・判断を、制限時間内でペーパーテストによって評価するのは難しい。多様で複雑な学習を長期的な観察による「おおむね妥当」という評価が適切である。これが、パフォーマンス評価の要諦である。
★こうした学習では、自分の学びの質を判断するという自己評価がとても重要である。教師による評価、生徒の自己評価のどちらのためにも、指標となる評価基準が必要だ。これがルーブリックである。
連載
小学校算数の基礎・基本の指導と評価(12) 計算について考える | 元筑波大学附属小学校教諭 正木 孝昌 |
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学習意欲のとらえ方・育て方(2) 学習意欲のアセスメント | 応用教育研究所理事長・筑波大学名誉教授 櫻井 茂男 |
問題解決能力とその評価(2) 理科的活動を含んだ問題解決能力(1) | 教育評価総合研究所代表理事 鈴木秀幸 |
ドリルについて考える=学習者の視点を考えるドリル論(2) 計算ドリルは時間限定で | 東北福祉大学準教授・授業づくりネットワーク代表 上条 晴夫 |
豊かな心と確かな学力の育成(1) 自己存在感や共感的人間関係を実感できる授業づくり | 福岡教育大学・九州栄養福祉大学非常勤講師(元福岡市立長尾中学校校長) 岸川 央 |
どうする?小学校英語(8) 英語が使える人材育成プラント義務教育の到達義務 | 国立教育政策研究所名誉所員・2014年度戸田市英語教育運営指導委員会委員長 渡邉 寛治 |
だんわしつ | 昭和学院小学校長・前筑波大学附属小学校教諭 青木 伸生 |
ひとりごと | 元公立中学校教諭 吉冨 久人 |