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特集
子どもたちの学習意欲の実態 経年比較調査の分析結果から
★1990年と2001年を比較すると、学校外学習時間が減少しており、30分以下しか勉強しない児童・生徒は、3-4割におよぶ。学習量からみて、日本の子どもたちの学習意欲が高いとはいえない。
★かつて日本の子どもたちを強制的に学習へと向かわせた受験や進学といったファクターが、学習動機としての機能を弱めており、なぜ勉強するのかが非常に見えにくい時代になっている。
★受験ですべての子どもに一律の動機づけをすることが難しくなっている現在、保護者や教師は、それぞれの子どもに応じて学習の意味を伝えるような関係性を意識的に築くことが求められる。
心理学からみた学習意欲が育つメカニズム
★学習意欲は、
1.自ら学ぶ意欲
2.外発的な学習意欲
3.無気力 の3つに分類できる。
★自ら学ぶ意欲は、「おもしろいから」自ら学ぶ、「自己実現のために」自ら学ぶ、という2種類の意欲からなる。発達的には「おもしろいから」→「自己実現のために」と変化する。中学生以降はこの2つの意欲が密接に関連する。
★自ら学ぶ意欲を育てるには、
1.知的好奇心を十分に発揮できる環境を用意する。
2.自分を見つめ、自分らしく生きられる目標を持つように指導する。
3.学習がうまくできたときに、それを認めてほめてあげる。
4.具体的な進路指導を充実させる。
5.できるだけ個人内評価と絶対評価を用いる。
6.自己評価能力を育てる指導とする
などが重要である。
メリトクラシーと学習意欲 -シンガポールを比較の鏡として
★メリトクラティクな動機づけシステムが支配的なシンガポール社会を比較の鏡としたとき、日本の教育が90年代に何を失ったのかが見えてくる。
★第一に、教育選抜の透明性に基づくメリトクラシーの正統性。第二に、有用感に裏打ちされた職業教育。第三に、学校内におけるメリット・システムと可視的な上昇移動ルート、である。
★これらの衰退の結果として、日本は現前の「学習への意欲」を欠き、進路展望を持ちにくく、上昇移動意欲に燃えたアスピラントたりえない青少年を、大量に抱え込むことになった。
★だが、すべての青少年の動機づけが失われたわけではない。「脱受験戦争時代」の到来とともにやってきたのは、動機づけの階層分化の時代でもあった。
学力低下問題と学習意欲
★学力低下を問題にするときに、測りにくい学力や、学ぶ力としての学力にも注目する必要がある。なかでも、学習意欲の低下は根本的な問題である。
★学習動機の2要因モデルは、「学習の功利性」と「学習内容の重要性」の2次元によって学習動機を分類・整理したものである。内発と外発の動機づけは、このモデルの対角線と見なせる。
★このモデルから見ると、伝統的な学校教育では、「実用志向」と「関係志向」の動機づけが十分ではない。社会の人々と交わりながら、学校での学習が自分の将来とかかわるものであるという学びの文脈をつくることが、学習意欲につながるのではないか。
子どもの意欲に培う授業を求めて
★子どもにはもともと持っている学びの欲求がある。考えたい、知りたい、体験したいという欲求である。このことに培う学びが豊かな学びとなるはずである。それによって授業も変わる。子どもの意識とは別なところに学びの対象があるのではなく、子ども自身の中に学びの対象の芽を見つけて、それに沿った授業を展開していくことが肝要である。
集団の学びが学習意欲を高める
★集団での学びは、その集団に所属する個人の学習意欲を高める。しかし、どのような集団でも、ただグループ活動や話し合い活動を実施すれば、所属する個人の学習意欲を高めるわけではない。
★個人の学習意欲を高める集団には、それなりの状態や特性がある。学級集団も同様である。子どもの学習意欲を高める学級集団は、一人ひとりの子どもに、次の三点を満たしている。
1.傷つけられないという安心感がある。
2.認められたい欲求が満たされている。
3.一体感がもてる。
学習意欲を高める進路指導
★学習意欲は、まず生活感情としての充実感がその基礎にあり、おもしろさ(感情)、勉強の意味づけ(思考・価値観)、進路成熟(行動)などから生まれる。自立(自律)の度合いとも関連する。進路指導と関連するゆえんである。
★学習意欲のわかない生徒には、その問題と向きあうことで、自分について自覚的になれることを教えたい。(学習意欲のある生徒も含めて)自分の興味は何か、何に幸せを感じるか、今の自分の生き様を自覚することにより、進路意識を高めたい。これに、構成的グループエンカウンターが役に立つ。
★この背景には、職業はパーソナリティの表現であるという考え方がある。
連載
教育評価再入門(2) 「新教育課程と教育評価」 | (財)応用教育研究所所長 辰野 千壽 |
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総合的な学習を支援するメディア活用(2) 「調べる学習とメディア活用」 | 大東文化大学講師 苅宿 俊文 |
目標準拠評価の評価規準の体系化の方策(2) 「認知能力の発達段階-科学-」 | 教育評価総合研究所代表理事 鈴木秀幸 |
アメリカの通信教育(2) 隣人愛とボランタリズムを強調するアメリカ | 教育臨床研究機構理事長 中野 良顯 |
標準学力検査を活用した教育実践(2) 「標準学力検査を活用して学力向上・指導改善を図る」 | 千葉市立花園中学校教諭 多田 健芳 |
総合的な学習の実践と評価(9) 「多様な評価者による評価を生かす」 | 名古屋大学附属中学校教諭 中村 明彦 |
だんわしつ | 福岡教育大学・九州栄養福祉大学非常勤講師(元福岡市立長尾中学校校長) 岸川 央 |
ひとりごと | 元公立中学校教諭 吉冨 久人 |