月刊誌 指導と評価

2008年 4月号
  1. 2008年 4月号 Vol.54-04 No.640  定価:450円
特集
新しい指導要録への期待
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特集

指導要録の基本的性格とその変遷

法政大学教授  服部 環

★指導要録は学校教育法施行規則によって制定された公簿であり、「指導」状況と「学籍」が累加的に記録され、児童生徒に対する「指導機能」と、外部に対する「証明機能」という二つの性格をもっている。

★「指導機能」を十分に発揮させることはむずかしいので、きめ細かな指導を行うためには補助簿の充実が強く期待される。

★指導要録の変遷、さらに「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ(案)」を見ると、ますます観点別評価が重視されると思われる。したがって、よりいっそう的確な指導・評価技術が要求される。

「各教科の学習の記録」について

京都大学准教授  西岡 加名恵

★明確な学力評価計画を立てて「目標に準拠した評価」を行えば、正確に学力実態を把握することができる。「目標に準拠した評価」の原則は、次の指導要録においても貫かれるべきである。

★学力実態を分析的にとらえるうえで、観点別評定には意義がある。ただ、「知」を構造的にとらえ、適切な観点を設定する必要がある。各観点に対応する評価方法を明示することも、有効である。指導要録としてポートフォリオを活用することも、検討されるべきであろう。

★「原理と一般化」の理解といった深いレベルでの学力を評価するためには、パフォーマンス課題を用いることが必要である。繰り返し類似の課題を与えることによって長期的に理解を深めることになるため、長期的ルーブリックを活用するとよい。

「各教科の学習の記録について

教育評価総合研究所代表理事  鈴木秀幸

★指導要録の改訂にあたっては、学習指導要領の改訂内容、評価の理論や実践の技術的進歩、現行指導要録の問題点を考慮すべきである。

★観点は「知識・技能」と、「活用」ないし「高次の技能」の二観点を基本に設定する。

★「知識・技能」はドメイン準拠評価、「活用」はスタンダード準拠評価を用いる。

★「活用」は八段階のレベル評価を基本とし、義務教育での到達目標をレベルで示す。

「総合的な学習の時間」について

兵庫教育大学教授  佐藤 真

★新しい指導要録では、わが国の児童生徒の資質や能力および態度等の「学力」が確実に育まれていることを示すために、「総合的な学習の時間の欄」が最重要点になる。負担だから、無理だからと指導要録を形骸化させることが最大の問題だが、これは論外。

★現行は、「観点」「学習活動」「評価」「方法・資料」とし、確実に能力形成が図られている状況を示しながら、探求型「総合的な学習の時間」を充実させたい。

「行動の記録」の改善に向けて

応用教育研究所理事長・筑波大学名誉教授  櫻井 茂男

★「行動の記録」の評価項目については、内容面から「規範遵守」のような項目、発達面から中学校段階で「自己認識」のような項目が必要である。

★評価方法については、評価基準を改善する必要があること、三段階程度の絶対評価にして、成長・発達、あるいは教育の効果をわかりやすくすることを提案した。

「特別活動の記録」について

埼玉県越谷市立大相模小学校長  石塚 忠男

★特別活動については、基本的な性格は現行を引き継いでいるが、全体の目標を見直して、各内容ごとに目標が示された。そして、子どもの発達や課題等に即した活動内容も示され、指導の重点化を図るようになる。

★さらに、体験活動や多様な集団活動がいっそう充実するよう内容が改善され、各学校の新たな取り組みに期待が寄せられる。

「総合所見及び指導上参考となる諸事項」について

文教大学学園長・応用教育研究所所長  石田 恒好

★欄の名称を内容にふさわしく改めたい。

★多くの事項を集めたので、大事なものが除外されたり、記入も形式化して、活用しにくいものになっている。すべての事項の内容を関係のある欄に分散して、活用しやすくする。

★総合的な学習の時間では、個人内の「所見」が主役なので、本来の欄に返し、「I所見」としたい。

指導要録に期待する

北海道教育大学附属釧路小学校教諭  田崎 博久

★「教師の指導に役立てるための原簿」としてより積極的に活用されるために、各学校での運用活用面の工夫や、デジタル化による情報の共有化が必要である。

★自校の指導要録の「信頼性」「客観性」を高めるために、その根拠となる各補助簿の点検、修正が急務の課題である。

指導要録に期待する

香川大学附属坂出中学校副校長  環 修

★生徒が意欲的に学び、学校で生き生きと活動できるようにするためには、教師が生徒のよさや特性を認め、タイムリーに評価することである。その生徒の情報は、日々の観察と評価の蓄積である指導要録の中にあり、その効果的活用が大切である。

★新学習指導要領で強調されている「思考力・判断力・表現力」を育成するためには、習得した知識・技能を活用した教科学習や総合的な学習の時間を適切に位置づけ、そこでの学習の様子を評価し、「生きる力」の育成につなげたい。

調査書の高等学校入学者選抜資料としての課題

埼玉県上尾市立瓦葺中学校教頭  小林 三智雄

★指導要録と調査書は、作成の目的や機能は異なるものの、生徒一人一人の可能性を積極的に評価するという点では共通したねらいをもっている。

★調査書の評定は、入学者選抜の重要な資料の一つではあるが、指導要録の改訂や選抜方法の多様化、多元化に伴い、その重みは相対的に低下しつつある。

★指導要録の「証明機能」を代弁した形の調査書は、入試情報としては弱い面がある。

★評価・評定への信頼を高めるため、教師の「評価力」の向上、「相対評価」活用の見直し、入学者選抜の弾力化、個別化を促進する指導要録改訂の動きに注目したい。

連載

ネット時代の読書論(1)   本は終わるのか-求められ、遠ざけられるもの 東京家政大学教授
平山 祐一郎
坪田耕三先生の基礎・基本を学ぶ小学校算数の授業づくり   「わかる」と「できる」-基礎・基本の考え方(22)図形 青山学院大学教授
坪田 耕三
教育評価の現状と課題(1)   教育評価の基礎・基本を学ぶ 文教大学学園長・応用教育研究所所長
石田 恒好
言葉によるコミュニケーション能力を育てる(1)   言葉によるコミュニケーション能力を育てるために 聖徳大学教授
福沢 周亮
教師力を磨く(2)   教師力を高めるとは 宇都宮大学准教授
飯田 和明
教育心理学の外国文献紹介(6)   記述式テストの客観性について (財)応用教育研究所所長
辰野 千壽
いま必要とされる教師力をいつどのように身につけるか(3)   大学院レベルで育みたい教師力 山形大学教授
出口 毅
だんわしつ   「活用」する力の習得 (財)応用教育研究所所長
辰野 千壽
ひとりごと 元公立中学校教諭
吉冨 久人
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