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特集
新指導要録の特徴-主な変更点
★観点別学習状況の評価の観点は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の三つに統一された。観点別評価と評定はこれまでどおり、目標準拠評価で行う。
★小学校中学年「外国語活動」の評価はそれぞれの観点に照らして行うが、記録欄には観点ごとの枠を設けず、顕著な学習状況の特徴を文章で端的に記述する。高学年で新設された「外国語」は、他の教科と同様の観点別評価と評定である。
★「特別の教科 道徳」は学習状況と道徳性に係る成長の様子を個人内で評価する。他の児童生徒と比較するのではなく、児童生徒が成長を受け止め、認め、児童生徒を励ます評価とする。
★「総合所見及び指導上参考となる諸事項」は要点を文章で箇条書きにして、記載事項を必要最小限にとどめる。
観点の評価
★能力や技能を構成する要素を細かに分類しても、実際の評価では、認知的能力について2つに区分して評価できる程度である。
★「知識・技能」の観点はペーパーテスト、「思考・判断・表現」の観点はパフォーマンス評価が必要である。
★「主体的に学習に取り組む態度」にはメタ認知が含まれ、他の観点との連動性に注意すべきである。
「特別の教科 道徳」の記録
★道徳科の評価は、学習状況や道徳性に係る成長の様子を個人内評価として文章で端的に記述する。道徳科の目標は道徳性を養うことであるが、道徳性は人格の基盤としての内面的な資質・能力であることから、それ自体の評価ではなく、道徳性を養うために行う学習の有り様を把握するようにする。各教科の目標に準拠した評価、観点別学習状況評価とは性格を異にしている。
「総合所見及び指導上参考となる諸事項」に何をどう書くか
★新しい指導要録の「総合所見及び指導上参考となる諸事項」欄には、教師の多忙化に配慮し、記述を簡素化することが強く求められている。しかし、児童生徒の学習の評価活動そのものを簡素にするわけではない。そのためには、確かな証拠や事実に基づいて端的に記録し、また、個人内評価によって、一人一人の学習状況を丁寧に把握し、指導や支援につながる記述を残すことによって、次年度以降の学習指導での活用に役立つものとしたい。
「総合所見及び指導上参考となる諸事項」欄への標準検査の記入
★標準検査は、妥当性、信頼性が保証され、検査結果を評価するための客観的な基準を備えているため、子どもの理解や学習指導にとって有益な資料を得ることができる。
★相対評価にはノルム準拠評価とコホート準拠評価があるが、標準学力検査はノルム準拠評価であるため、従来からの相対評価に対する批判はあまり当てはまらない。
★標準検査の結果の多くは数値情報であるが、それだけにとどまらず、当該の数値の意味を適切に解釈し、その後の指導に生かすことができる内容を具体的に文章で記入する。
特別支援教育-通常の学級に在籍する特別支援教育を受ける子どもの指導要録の記入
★通常の学級においては障害のある児童生徒に対し、障害の状態や発達の段階に応じた指導を充実させるため様々な配慮が提供される。授業を含めた学校生活や学習評価についての配慮等について、「総合所見及び指導上参考となる諸事項」欄に記入する。
★通級による指導を受けている児童生徒の場合、通常の学級での指導について記述しておくことが必要である。同時に、通級による指導を受けている学校名、通級による指導の授業時数、指導期間、指導内容や結果等を記入する。
★個別指導計画に、通級による指導に関して記載すべき事項が記載されていれば、その写しを指導要録に添付して記入に代えることができる。
今月のイチオシ!!これだけは押さえたい学習評価(7)評価が生徒の学習観に与える影響
●評価が生徒の学習観に与える影響
本連載では、評価の機能として総括的評価と形成的評価があり、指導要録に関わる評価は総括的評価であること、とくに総括的評価がハイステイクスなものとなる場合には「評価者間信頼性」が必要となること、けれどもわが国では、この評価者間信頼性を確保する方法について十分配慮してこなかったことを指摘しました。
今回はこうした総括的評価や形成的評価以外に、評価が生徒の学習観に与える影響について説明します。評価が生徒の学習観に与える影響を考えれば、大学入学共通テストで記述式の問題を出題する必要があると考えます。
●評価に関する私の苦い思い出
以前高校の教員であった私は、私の授業に関して、その中での評価に関わる苦い思い出が3つあります。いずれも評価が生徒の学習観に影響することと関係しています。
①25年ほど前、イギリスの学校でフィールドワークに基づくレポートを見た私は、これを参考に自分の学校でレポートを生徒に課したところ、ある生徒がこう言ったのです。「レポートは返ってくるのですか」。生徒は「中学でもレポートのようなものがあったが、先生の机の上に積まれたままで返却もされなかった。」と言い、「レポートをそもそも採点しているのか、成績に反映されるのか疑問だ」と言いたいようでした。
②15年ほど前、高校1年生の生徒が2学期の期末テストが終わった時に言ったのと同じ言葉を、卒業後たまたま街中で出会った時にも聞いたのです。「先生の授業は面白くて役に立つと思ったけれど、(中間や期末)テストには出ない」。その高校では、定期テストは同一学年同一科目は、担当教師が複数いても、共通のテスト問題で成績を付けることとなっていました。さらに(全科目のテスト点数を合計して)定期テストごとに順位をつけて生徒に通知していました。つまり、授業での指導内容には担当教師の独自の視点が入りますが、そこは共通テストに反映できなかったのです。
③数年前、ある生徒が授業中、突然手を挙げてこう言いました。「先生の授業を聞いていても、センター試験には役立たない。センター試験に役立つ授業をしてほしい」。私はセンター試験向けの授業に特化することは高校教育の目的に反するという意味の説明をしたところ、この生徒は授業時間中、問題演習をそっとしていたようでした。(自己採点によれば)その生徒がセンター試験で最も高い点数を取ったようでした。
●それぞれの例が示すこと
(1)①の例から-レポートの採点技術
生徒の言い分は、採点されないようなレポートに力を注いでも報われない、そのようなレポートを課すのはやめてほしいということであったと思います。評価されないものには力を入れたくない、逆に評価されるものは頑張ってやりたいということです。
レポートが採点されないという問題は、その当時わが国には、生徒も納得できるようなレポートの採点技術が開発されていなかったことに由来すると思います(今日でもわが国全体としてその点が改善されたかといわれると返答に窮すといわざるをえませんが)。当時私はイギリスでGCSE試験の調査研究をしていましたが、その一部としていろいろなテーマに関するレポートの採点技術を学んだばかりでした。この課題解決は当然、レポートの採点技術を開発すべきという方向です。
(2)②の例から
②の例は、いくら授業で将来役に立つようなことを指導しても、その内容がテストに出題されなければ、生徒は重要であるとか、しっかり身に付けなければならないとは受け取らないということです。逆に言えば、教師が重要であるとか、役に立つと思うようなことはテストに出さなければなりません。そうしないと、生徒は教師の意図は伝わらないのです。
(3)③の例から
これはハイステイクスなテストの例です。ハイステイクスなテストが行われる場合には、生徒はそれに合わせた学習方法を採用します。生徒も教師も試験に出題される(と推定される)学習内容を学習したり指導したりします。また、そのテストの形式に合わせた学習や学習指導が行われがちとなります。
しばしば「多肢選択式のセンター試験の結果と、生徒の書く能力は相関関係にあるから、わざわざ採点の難しい記述式問題を出題する必要はない」という意見を聞きますが、このような意見は前記のように、試験のあり方が生徒の学習観や指導方法に影響することを全く考えていない意見です。
●評価と学習の関係を整理すると
ここまで述べたような評価が学習に与える影響について、イギリスの著名な評価研究者P・ブロードフット(Broadfoot,P)は次の4つを指摘しています。
①評価は学習に対するモチベーションを高める
意味:「良い評価結果が出れば、その科目に対する学習意欲が高まり、自信を持つようになるが、逆であれば学習意欲を失い、自信もなくなる。一般的にはテストや評価は学習に対する意欲を高めると言われているが、結果によっては意欲を失わせることもある」
成績に反映されなかったり評価されなかったりする学習活動に対して、生徒はしばしばモチベーションを持ちにくいものです(私の例①)。わが国でも最近は、実験観察活動やパフォーマンス評価が推奨されていますが、どのように評価されるかを生徒に説明しないと、概して生徒はそのような評価の課題に真剣に取り組みません。
②評価によって生徒は何を学習すべきかを知る。
意味:「生徒は指導されたことの中で、評価される事柄を学習すべき重要なことと考える」
教師が授業中これは重要であると強調しても、評価されない事柄は生徒からすれば重要とは見られません(私の例②)。指導だけでなく評価の重要さがわかります。
③評価により生徒はどのように学習すべきかを知る。
意味:「評価の在り方は、生徒の学習スタイル(例:アクティブ・ラーニングとなるか受け身の学習となるか)に影響する。また、学習したことを別の課題や分野に応用したり、長く記憶に残ったりするようになるかについても影響する。メタ認知能力を育成するかどうかにもつながる。」
センター試験の多肢選択式のテストは、どのような学習方法を生徒が選択するかに影響します(私の例③)。センター試験で良い結果を出すためには、私が当時指導していた現代社会と政治経済では、できるだけ多くの詳細な知識を詰め込むことが最も効果的な学習方法(プリントに用語や出来事名を書き、部分的に空欄にして、生徒は授業で説明を聞きながら空欄に書き込んでいく方法)と私も考えていました。けれどもこの方法は、プリントにある用語等を説明していくだけであり、センター試験が終われば詰め込んだ知識もすぐ忘れてしまうし、現実のいろいろな事件や出来事を学習した知識等を用いていろいろな角度で考えることもほとんどありません。そのため私自身はこの方法を採用しませんでしたが、センター試験で出題された問題を見ると、授業で扱わなかった知識がたくさん出題されていて、この方法を取った方がより多くの点数を取らせることができると感じざるをえませんでした。多くの教師は、センター試験でよい点数を取ることを優先せざるをえないので、心ならずもこの方法をとっています。
このように、センター試験の多肢選択式の問題は、生徒の学習方法に影響する(「浅い学習(shallow learning)」を広める)だけでなく、教師の指導方法にも影響するのです。新学習指導要領で「深い学び」が求められ、アクティブ・ラーニングが必要だといわれているのですから、「浅い学習」をもたらす多肢選択式のテストを変えていく必要があります。
評価を通じてメタ認知能力を育成できるとしているのは、自己評価を学習活動に組み込む場合である。ただし、授業の終わりに「分かった」「分からなかった」というような自己評価を求めるだけではいけません。生徒自身に評価基準を理解させ、これを用いて自己評価する指導を繰り返す必要があります。
④評価により、生徒は現在用いている学習方法が効果的かを知ることができる。
意味:「現在用いている学習方法を評価することで、うまくいっていればその学習方法を継続したりより徹底的に用いたりする。そうでなければ学習方法を変えていく」
このような評価が学習観に与える影響を考えた上で評価方法を選択しなければならない。
巻頭言/新指導要録で思ったこと
連載
教育の窓(44)「学習評価の在り方ハンドブック」を読む | 教育評価総合研究所代表理事 鈴木秀幸 |
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「教師力」アップセミナー子どもとともに成長する教師をめざして(12)子どもの成長を促進するために必要な教師の資質・能力とは何か-教師一人一人の成長を支える学校組織風土:温かな人間関係とチーム効力感の醸成が鍵 | 創価大学教職大学院准教授 大関 健道 |
QUを活用したPDCAサイクルで教育実践の向上をめざして(12)これからの学校教育課題の達成に求められるもの-インクルーシブ型学級集団づくりを組織対応で推進する | 早稲田大学教授 河村 茂雄 |
木下是雄と「言語技術の会」ルネッサンス(10)実践の困難 | 文部科学省教科書調査官(体育) 渡辺哲司 |
「主体的・対話的で深い学び」を創る(10)中学校理科3年-化学領域「電気分解」 | 筑波大学附属高等学校講師・元筑波大学附属中学校教諭 荘司 隆一 |
「主体的・対話的で深い学び」を創る(11)中学校社会2年-歴史的分野 単元「近代の日本と世界」 | 十文字学園女子大学准教授 三藤あさみ |
教育統計・測定入門(83)混合効果モデルの基礎 | 法政大学教授 服部 環 |
教育相談はこう学ぶ!-全国各地の特色ある教育相談研修(12)実践へつなげる研修-受講者に具体的なイメージをもたせる工夫 | 広島県立教育センター特別支援教育・教育相談部指導主事 大里 剛 |
通常学級の実践から学ぶ特別支援教育のヒント52(12)校内研修で活かす特別支援教育キャッチコピー集 | 埼玉県立大学准教授 森 正樹 |
こうすればうまくいく!スペシフィックSGE(12)特別支援学校でのSGE-SGEを取り入れた合同体育と学級での実践を通して | 沖縄県宜野湾市立普天間第二小学校教諭 照屋初美 |
授業をみる・語る・研究する(11)非言語的授業スキルの分析③空間行動 | 沖縄県宜野湾市立普天間第二小学校教諭 照屋初美 |
公認心理師の資格をもつガイダンスカウンセラーの実践(12)学習に困難をかかえる生徒への支援や配慮について考える | 学校心理士・ガイダンスカウンセラー・公認心理師 伊賀美夕季 |
講座キャリア心理学-キャリア発達を支援する(12)キャリア教育の意義 | 労働政策研究・研修機構副統括研究員 下村英雄 |