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特集
特殊教育から特別支援教育へ
★文部科学省が設置した「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」が、平成15年3月に、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を取りまとめた。その中で、LD・ADHD・高機能自閉症への対応は、「緊急かつ重要な課題」との認識が示され、「6.3%」という全国実態調査の結果も示された。
★これらを受けて、LD等への支援体制の構築に向けたモデル事業が全都道府県で始まった。各都道府県が指定した支援地域内のすべての小中学校における体制整備を目指す。全国3万4千校弱の小中学校内の11%強が、校内委員会の設置やコーディネーターの指名等を含む支援体制の構築に向けて動き出した。また、そのような体制整備を支えるためのガイドライン策定の準備が始まった。
これからの学校と特別支援教育
★これまでの特殊教育は、児童生徒の障害の種類や程度に応じて、盲・聾・養護学校や特殊学級において教育を行う等により、特別の配慮と手厚くきめ細かな教育を基本として実施されてきた。しかし、その一方で、通常の学級に在籍する特別なニーズを持つ子どもたちへの対応はほとんどされてこなかった。
★こうした制度上の不備を改善し、これまでの「場」に応じた特殊教育から、障害のある児童生徒等の視点に立って「一人一人のニーズ」に応じた特別支援教育への転換が求められている。特別支援学校への転換を図る盲・聾・養護学校のみならず、小・中学校の改革が求められている。特別支援教育を進めるために、小・中学校と特別支援学校とが連携・協力して、この制度改革に当たる必要がある。
特別支援教育に学校で取り組むために
★はじめに特別支援教育に学校全体で取り組まなければならない理由を述べ、次に学校全体で取り組むためのキーワードを4項目挙げた。
1.特別支援教育に対する教師の意識の変革・・・障害によって教育の場を分けるのではなく、学校として個々の児童生徒の教育ニーズに応じた教育を行う。
2.特別支援教育コーディネーターの育成・・・校内で特別支援教育が奏功するためのキーパーソンである。
3.校内の体制づくりと他機関との連携・・・校内委員会によるアセスメント、援助チームの構成、校外の関係諸機関との連携・・・校内委員会によるアセスメント、援助チームの構成、校外の関係諸機関とコンサルテーション関係に基づく連携を行う。
4.通常の児童生徒や保護者への理解啓発・・・通常の学級の児童生徒と特別支援教育のサービスを受ける児童生徒が共に育つことを願う。
アメリカの特別支援教育
★アメリカの特別支援教育は、「障害を持つ個人の教育法」(IDEA)に基づく。
★特別なニーズを持つ子どもたちの4大カテゴリーは、特異的学習障害、言語障害、知的障害、情緒障害である。
★特別支援教育は特別な学習指導と関連サービスであり、個別教育計画(IEP)がその要である。
★コラボレーション(協力)とチーム作りがキーワードである。
特別支援教育に必要な専門家 -イギリスに学ぶ-
★「今後の特別支援教育の在り方について」の最終報告(文部科学省、2003)を実践していくときに、どのような人材や専門家が必要であろうか。ここでは、現在のイギリスにおける「特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs:以下SEN)のある子どもたちに対する支援」がどのように行われているかを概観し、特に「特別なニーズ教育」を推進している専門家およびその役割を中心に論じた。
★今後の特別支援教育は、支援の対象者である、LD、ADHD、高機能自閉症を含む障害児だけではなく、通常学級にいながら支援を必要とする子どもたちに対して広くあるべきであり、また、それを支えるために、日本においても地域の専門家チームには、アセスメンター、個別学習支援の専門家、メンタルヘルス及び行動の支援専門家、あるいは学校内においては、特別支援教育コーディネーターの他に、個別学習支援の専門家、スクールカウンセラー、教育補助員等が必要であることを述べる。
特別支援教育を可能にするための学校現場の条件
★特別支援教育を可能にするための第一の条件は、学校の組織作りである。今までの学級・学校の概念ではなく、「目的が明確に共有された中では、到達へのアプローチは個性によって多少の差異がある」という状態が必要となる。そして、支援の必要な児童・生徒へのより分析的な観察を通じて気づきの目を高めていく。
★対応の基本は、「普通のことをきちんとやる」ことにつきる。学習が遅れがちな子にはその子に合った教え方で丁寧に教え、行動面の問題のある子には、その行動の裏に隠された理由や心情を理解し、そしてその子がわかる言葉や態度でいけないことはわからせ、望ましい態度を教えていく。これらを丁寧にやっていくことが特別支援教育である。
これまでの特殊教育の成果をどう引き継ぐか
★「特別支援教育の在り方について(最終報告)」では、「これまでの特殊教育は、障害の種類や程度に対応して教育の場を整理し、そこできめ細かな教育を効果的に行うという視点で展開されてきた。」と総括する。そこではじめに、成果を引き継ぐべき「特殊教育」は何だったのかを、法令整備と学習指導要領の変遷から概括した。
★場の整備と学習指導要領の変遷から見たきめ細かな教育課程編成の過程は、教師が眼前の子どもの教育の計画・実施・評価する専門性の蓄積の過程と考えられた。大塚養護学校の教育実践の歴史も教育内容や指導方法、具体的な指導計画の蓄積であった。養護学校の一教師として、各学校・学級のそうした蓄積こそが、特別支援教育に生かされると考える。
特別支援教育への保護者の期待
★長い間、教育的支援を受けられなかった軽度発達障害児の保護者にとって、特別支援教育の期待は大きい。
★新たな制度や教育システムの転換には、具体的な計画が必要であり、特別支援教育の実現には多くの課題が残される。
★教育現場での混乱、保護者の複雑な心情を理解し、新たな問題を協議する必要がある。
★軽度発達障害の多岐にわたる問題を踏まえ、多方面での支援体制の確立が望まれる。
★特別支援教育は、保護者を含め、教育・医療・福祉・労働等が取り組む課題なのである。
LD・ADHD・高機能自閉症のアセスメント
★LD、ADHD、高機能自閉症により、学習や生活上に特別な支援を必要とする児童生徒の実態把握に共通するアセスメントを、特別支援教育体制の推進過程に位置づけて整理した。
★教師が指導や対応を工夫しても、なかなか成果や変化がみられないと気づいた時点からアセスメントは始まる。校内では校内委員会などの組織、チームが、指導や観察、検査、面談等を通して子どもの学習面、行動、生活面、知的・認知能力面、あるいは身体面についてアセスメントを進めていく。必要に応じて、さらに教育委員会などの専門家チームや専門機関へと、より詳細なアセスメントと総合的な判断を求め、その結果から、適切な教育的対応を勘案していく。この過程がアセスメントである。
連載
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