- トップ
- 指導と評価
特集
「持続可能な社会の創り手」を育む高大接続改革
★入試改革を「高大接続改革」の文脈で考えていくにあたっては、高大の接続段階で問われる力とは何かを明確にし共有していくことが大事である。大学入学共通テストについては、センター試験の蓄積を生かしつつ、問いたい力をより明確化することなどが問題作成の大きな方向性とされているところであり、こうした方針は、センターに新たに設置された高大連携の議論の場を通じて、評価・改善が重ねられていくことになるだろう。学習指導要領の前文にもあるように、これからの教育に求められているのは「持続可能な社会の創り手」を育むことであり、ペーパーテストでは捉えにくい力も含めて、これから未来を切り拓く生徒・学生にどのような力が必要になるのかを考え育もうとする教員の創意工夫こそが改革の起点となる。
2020年度英語入試改革の構造的欠陥
★2020年度から導入される「大学入学共通テスト」の枠内で、英語の民間試験が利用される。しかし、異なる試験の成績を比べるために作られた「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」と、各受験者の成績を志望大学に送るために構築された「大学入試英語成績提供システム」には致命的な欠陥がある。制度の試行に生身の受験生を利用するまでもなく、2024年度以降の民間試験への一本化は不可能である。抜本的な見直しを!
中高一貫教育と高大接続改革
★高大接続改革は、6年間にわたり生徒を育てる中高一貫教育校にとって、早期に取り組む動機がもちやすかった。カリキュラム・マネジメントの好機ととらえ、改革を推進すべきだが、改革のスピード調整が生徒や教員に不安をもたらしている側面もあり、公平・公正に行うための環境整備が望まれる。6年間の系統的な指導を生かした探究活動や英語4技能の育成は、中高一貫の強みであり、中長期的には不可逆な改革である。中学入試の適性検査と大学入学共通テストの理念は共通しており、今後も大きな変化なく継続していくと思われる。ポートフォリオや調査書の作成には、BYOD等、新たなツールを活用した効率化が期待される。
高大接続改革がもたらす大学入試への影響~個別選抜の在り方に生まれた変化~
★本稿では、多面的・総合的評価の課題の1つである一般入試における主体性等の評価について、佐賀大学で導入した「特色加点制度」について紹介する。本制度は、任意申請の書類審査であり、センター試験や個別試験の得点とは別に加点によって評価する。また、一般入試における課題を解決するために、受験生全員を採点の対象とせず、合格ボーダー層だけを抽出して採点するという点でも特徴的なものだ。
★また、高大接続改革の影響力がもたらした個別選抜における新しい試みとして、①インターネット出願の普及に伴う書類審査の電子化の実現、②ペーパーテストでは評価がむずかしい領域についてデジタル技術を用いて評価するCBT(Computer Based Testing)の導入について紹介する。
米国の高大接続の状況-大学入試を中心に
★米国の大学入試は20世紀に大学入試の標準化と体系化が進むと、とくに東部の伝統的な私立大学でユダヤ人学生が急増した。学力に性格や行動特性を加味した総合的評価は、実はこの問題に対処しそれを正当化するために始まり、現在まで続いている。今日でもアジア系学生を制限しているのではないか、との批判が出ている。
★米国では、入学者選抜の観点・基準は教授会が決めるが、実際の選考作業は入試専門のアドミッション・オフィサー(AO)が行う。AOは高校との情報交換や、評価をすり合わせる研修会を繰り返し、実際の選考作業でも評価者間の一致を図る工夫をしている。
★合否で最も重視されるのは高校での成績(履修科目が高度かどうかも含む)や共通テストなどの学力だが、高校・居住地域・人種・家族で初めての大学進学者かなど志願者の背景を考慮しているとされる。
★近年では、大学の約4分の1がSATやACTの共通テストの得点を出願要件としていない。背景には、大学入学後の成績と一番相関が高いのが高校の成績だという分析も一因である。米国では健全な高校生活の延長線上に大学入試があるという考え方に変わってきているように思われる。この点は日本も見習うべきだ。
イギリスの高大接続の概要
★イギリスでは義務教育修了時、GCSEという資格試験を受験して、一定の成績以上であれば大学進学の資格が得られる。大学進学希望者は二年間の進学コースで学び、大学入試に必要なAレベル試験を受験する。大学は受入れ条件をAレベル試験の成績などで明示している。
★Aレベル試験は、ふつうは三科目ほどを選択し受験する(日本の大学2年程度)。記述式問題が圧倒的に多く、試験時間も五時間程度と長い。実際の解答例(模範解答ではない)とその評価とその理由が公開されるなど、信頼性の確保に配慮している。採点はまず問題ごとに1点刻みで出して合計し、その合計点から五段階の資格(および不合格)のレベルを出す。記述式の採点に関してはイギリスのような公開と研修が不可欠である。
今月のイチオシ!!これだけは押さえたい学習評価(4)観点別学習状況の評価は、従来の方法でよいか?
1ちょっと待った:国立教育政策研究所の評価規準の新「方針」の問題点
本連載で論じてきたことと密接にかかわる出来事が起こりつつあります。先日、新学習指導要領に対応した評価の在り方について、国立教育政策研究所による各県等の指導主事対象の説明会で、次のような方針(以下、「方針」)が示されました。
❶内容のまとまりごとに評価規準を作成する。
❷学習指導要領の各教科の「2内容」に書かれている文章をそのまま用いて評価規準を作成する。ただし、学習指導要領の記述で文末の「…すること」を「…している」と変換すればよい。
❸ABCすべてについての評価規準を作成したうえで評価を行うのではなく,評価規準に表されたものを「おおむね満足できる」状況(B)として捉え,それを踏まえてAとCを判断する。
「方針」はほぼ従来どおりと言えます。しかし、このままでは目標準拠評価はまた十年停滞し、各学校や教師は苦労しつづけることになってしまいます。今回はこれまでの議論をもとにこの問題点について順に論じます。
2「思考・判断・表現」はどう発達していくのかを明らかにする
(1)資質・能力を育成するためのカリキュラム構成方法
❶~❸の問題を論じる前に、全体に通じる根本的な問題を考えます。それはカリキュラムの構成方法です。
●内容中心のカリキュラム構成方法:わが国で長年なじんだ考え方で、これまでわが国の学習指導要領はこの方法をとってきました。この場合、学習の進歩は知識や技能がより高度な内容になることにより実現すると考えるのです。例えば、江戸時代は徳川幕府による武士の支配であったという学習から、徳川幕府の統治体制の特徴や、その統治体制に生じた問題の学習などというふうに学習事項が詳細になったり高度になったりすることで学習が進歩すると考えます。
新学習指導要領も基本的にそれを踏襲しています(注1)。例えば【例1】、第1回で指摘したように、小学校社会3~6年まで思考力や判断力に関わる指導内容(目標)は四年間ほとんど変わりません。4~6年ではすべて「役割を考え、表現する」であり、異なるのはこれらの前段にある語句(学習内容)だけです。「廃棄物の処理のための事業(4年)」「放送、新聞などの産業(5年)」「外国の人々の生活(6年)」。
もちろん思考・判断・表現の前提として、知識・技能は不可欠です。しかし例えば、江戸時代に関する歴史的な思考等と、明治時代に関する歴史的な思考等が異なるわけではありません。「思考・判断・表現」で重要なのは、その発達段階です。
●資質・能力を育成するカリキュラム:もし資質・能力を育成するカリキュラム(コンピテンシー・ベースのカリキュラム)であれば、そうした思考・判断・表現の発達段階を踏まえ、思考力や判断力をどう育成するか(指導目標)を示さなければなりません。本来は学習指導要領でこうした記述をすべきでした。しかし新学習指導要領が完成した今となっては、次善の策として、このような役割を学習評価が担わなければなりません。しかし「方針」ではそのような認識が見られません。学習指導要領でも観点別学習状況の評価の方法でも、思考・判断・表現の発達段階を示さなければ、もはや資質・能力を育成する教育課程とはいえなくなってしまいます。
3「方針」❶~❸の問題
❶「思考・判断・表現」は「内容のまとまり」ごとに評価規準を作ることに適さない
まず❶の、全3観点とも内容のまとまり(注2)ごとに評価規準を設定する「方針」の問題です。しかし、思考・判断・表現(例:「江戸時代の鎖国政策が江戸時代の日本社会に与えた影響」)は、評価対象の範囲を明確化できないので、本来ならば、スタンダード準拠評価を用いなければなりません。この問題点は前回詳述しました。「思考・判断・表現」では「内容のまとまり」ごとに評価規準を決める必要はありません。必要なのは、思考力等の発達段階に即した評価基準です。しかし、新学習指導要領では【例1】のように、各学年の記述がほとんど同じですから、発達段階が踏まえられていないと言えます。そこで評価基準により、この点を補う必要があります。とりわけ後述するAの評価基準とその評価事例=生徒の実際の解答例集が必要です。
❷目標=評価基準とはならない
❷によれば、学習指導要領の目標が、評価規準では「~している」になります。この評価規準では、結局「~している/していない」の二分法的な評価を言っているわけです。目標=評価基準ということはそういうことです。
しかし、第2回で述べたように、目標=評価基準とはなりません。小ステップな目標ならともかく、学習指導要領に記されているような一般的な目標は、達成の度合いが多様であり、したがって教師はその多様さを評価しなければなりませんから、学習指導要領の目標=評価基準とはならないのです。ことに「思考・判断・表現」では、子どもの学力の実態は多様であり、目標=評価基準とはならず、数段階の評価基準が必要です(これは、従来ペーパーテストでも記述式問題の採点で部分点を与えてきたように教師の実感だと思います)。
❸事前に評価基準を用意せずに、信頼性の高い評価はできない(Aが不明のままではいけない)
しかも、❸では二分法的な評価ではなく「ABCで評価する」というのですから、どうしてもAとBの区別は必要です。しかし、❸のように、Bの評価規準だけをもって評価しつつそれよりの上下でACは臨機応変に判断することが「思考・判断・表現」でできるのでしょうか?
この観点は、主観性が高いと指摘されています。つまり、Bでさえ評価規準を作成していても教師により評価はばらつくのです(ときに同一教師でさえ日により採点の順番によりばらつきます)。記述文のないACで評価が安定する・一致する保証があるのでしょうか? 評価の信頼性・客観性を保護者から問われたとき、きちんと答えられるのでしょうか? 結局、現実には、事前にACを作らざるをえないでしょう。
これは一見、評価規準作成の労力を減らすようで、逆に教師は常にABCの判定に悩むことになります。教師は指導上は、Aを想定してから授業に臨みます。Bだけを想定してあとは臨機応変にAを目指すなどということはふつうはありません。これでは学習者も困るでしょう。したがって、Aとはどんな状態か、事前に示しておくことで指導も学習も安定するのです。学習指導要領にBの指導目標しかない現状では、学習評価の面でAの姿を示すべきです。
3どう改善すべきか-長期的な視点から発達段階を考える
思考力や判断力の評価基準は、本来は長期的な視点から発達段階を考えることが第一歩です。したがって学習指導要領からして発達段階を踏まえてもっと丁寧に作成すべきです。しかし、現に学習指導要領が完成している以上、あとは学習評価の面からこれを補うほかありません。そのための方策は、一部くり返しになりますが、次のとおりです。
(1)まず、Aの評価基準を国が示す。一部ではなく、Bと同じように全「内容のまとまりごと」にである。国が示すことで負担軽減になります。
(2)さらに、(1)の記述文を補うために各評価基準ごとに当てはまる生徒の実際の解答例(作品)集を示します。これを評価事例集と呼びます。
(3)なぜそのような(AやBといった)判断をしたのか理由も付けるべきです。②で述べたように、目標は「どの程度」が不足していることが多いのですが、評価基準では「どの程度」が必要条件となるからです(第2回参照)。
(4)その後は、Cの評価基準の記述文、生徒の実際の解答例(作品)集も必要です。これがないとBCの区別は明確にならないからです。
(5)長期的には、学習指導要領の目標で、長期的な発達段階を踏まえた記述をし、この長期的な発達段階に位置付けて各評価基準を作ることです。このようにすれば、例えば4年生のAと5年生のA、B、Cの関係がわかり、指導の継続性を維持できます。現在はある学年のA、B、Cと次の学年のA、B、Cの関係が不明ですし、「方針」では今後も不明のままです。
おわりに
観点別学習状況の導入から評価は教師の一大作業と化しています。そもそも授業中にも指導要録のための評価をしなければならなくなり、「知識・理解」(注3)以外の観点の評価はむずかしく、観点別・「評定」ともに信頼性をどう高めるか教師は悩んできました。さらに情意面を典型に妥当性にも悩んでいます。保護者からの疑問にも答えられるよう労力・時間をかけています。前述したように、「方針」の❷❸は一見、負担軽減のようで実際には省力化になりません。
第3回で述べたように、目標準拠評価は教育的ですが、労力・時間がかかり、信頼性が低いです。本来は、評価力・指導力が向上し、教師に手応えがある評価方法ですが、教師・学校に丸ごと任せれば、信頼性・妥当性を高めるのに教師は汲々となり、指導の改善に力をさけなくなってしまいます。
高い信頼性が求められる指導要録に国として目標準拠評価を導入した以上、教師が目標準拠評価をスムーズに行えるよう、労力を減らせる環境と信頼性を高める環境を国は整備すべきです。くわえて、妥当性(とくに情意面)も本当に高いのか、教師が省察できるような環境が必要です。
注1:新学習指導要領は形式的にはコンピテンシー・ベースも取り入れました(つまり、形式上、目標が思考・判断・表現と知識・技能と別々に記述されました)が、思考・判断・表現の記述はあまりにも簡素であり、学年間でもほとんど同じです。これでは、目標としても評価の手がかりとしても不十分です。
注2:国語の「思考・判断・表現」に関してはA「話すこと・聞くこと 」B「書くこと 」C「読むこと」となっており、他教科のように「内容のまとまり」とはしていないので、他教科と別に論じる必要があります。
注3:「知識・技能」の評価は、ペーパーテストでよいと筆者は考えています。そのため、この観点を評価する問題例を国が示したほうがよいと考えます。
連載
巻頭言/大学入学共通テスト考、提案者の1人として | 教育評価総合研究所代表理事 鈴木秀幸 |
---|---|
教育の窓(41)「意見」のはじまりをめぐって | ライター 寺川 潔 |
「教師力」アップセミナー子どもとともに成長する教師をめざして(8)学校全体で取り組む研究的実践の進め方①~人権教育をカリキュラム全体で推進するための工夫と組織づくり~ | 創価大学教職大学院准教授 大関 健道 |
QUを活用したPDCAサイクルで教育実践の向上をめざして(8)新学習指導要領における保幼小連携の取組②-生活力を育成する保育園の確実な実践- | 早稲田大学教授 河村 茂雄 |
続説明文・意見文を書くことの指導(8)他教科での書く指導 他教科・領域に生かす書く指導 | 筑波大学附属小学校教諭 白坂洋一 |
特別寄稿/パフォーマンス評価の実践研究(4)-モデレーションでパフォーマンス評価の信頼性と妥当性を高める- | 埼玉県立総合教育センター教育課程担当指導主事兼所員 篠田 俊文 |
木下是雄と「言語技術の会」ルネッサンス(7)外部への影響 | 文部科学省教科書調査官(体育) 渡辺哲司 |
「主体的・対話的で深い学び」を創る(5)小学校社会-第5学年わが国の農業 「つかむ-調べる-まとめる-いかす」の学びの過程の中で | 高松市立川東小学校 黒田拓志 |
「主体的・対話的で深い学び」を創る(6)中学校理科-第2学年第2分野 | 帝京平成大学教授 白鳥 信義 |
教育相談はこう学ぶ!-全国各地の特色ある教育相談研修(8)コーディネーターの役割を考える-事例検討を通して | 沖縄県立総合教育センター 島袋美加 |
通常学級の実践から学ぶ特別支援教育のヒント52(8)課題の難易度・負荷の配慮 | 埼玉県立大学准教授 森 正樹 |
こうすればうまくいく!スペシフィックSGE(9)SGEリーダーとしての成長-ジェネリックとスペシフィックの経験から考える | 札幌市立公立中学校教諭 瀬尾 尚隆 |
授業をみる・語る・研究する(7)言語的スキルの分析②対話のある授業 | 東京学芸大学名誉教授 河野義章 |
公認心理師の資格をもつガイダンスカウンセラーの実践(8)教師として幸せに生きることをめざす・支える-自主・向上性と同僚・協働性の向上をめざして- | 四日市市立内部中学校教諭 伴野直美 |
講座キャリア心理学-キャリア発達を支援する-(8)プランド・ハップンスタンス理論 | 労働政策研究・研修機構副統括研究員 下村英雄 |