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特集
アカデミック・リソースを活用したキャリア教育の推進-「日本キャリア教育学会」という外部資源-
★「省察的実践家」である教師は、キャリア教育を推進していくために学校の内外において実践研究をしていくことが求められている。日本キャリア教育学会はそのためのアカデミック・リソース(情報資源・人的資源)を有しており、会員でなくとも利用できる。第一に、研究大会に参加することで、学校現場をフィールドとする事例研究や、実践の効果測定、横断的・縦断的研究にふれることができる。また、参加がむずかしい実践者もインターネットを通じて学会誌や学会ウェブサイトにアクセスすることで、実践を前進させるヒントを獲得することができる。第二に、各地域に設置された6つの地区部会は、実践者と研究者によるローカルなキャリア教育ネットワークを構築することに寄与している。
全国中学校進路指導・キャリア教育連絡協議会の活動と組織運営
★新学習指導要領の中に「特別活動を要としつつ、各教科の特性に応じて、キャリア教育の充実を図ること」と明記され、キャリア教育の推進が求められた。このような中で、本年7月24日から第42回全国中学校進路指導・キャリア教育連絡協議会大会が開催された。理事会において各地区から、キャリアパスポートの令和2年度4月からの実施、高校入試制度の変更等、目前の課題が山積していると報告があった。一方、少子化に伴い、学校の統廃合や学級減が続いて、学校・教員数、研究費が減少し研究環境が悪化していることも報告された。全中進創設の意義、先達の熱意を振り返り、組織の一覧を活用し連携を密にし、本稿がキャリア教育の推進力になることを願っている。
キャリア教育の視点で行う学校改革
★現在、多くの若者が価値観の多様化、グローバル化等の激変する社会に順応できず、国が発表する「子供若者白書」では、ニート、フリーター数の激増が大きな社会問題となっている。いまこそ、義務教育段階の小中学校から、激変する社会の中で、力強く生き抜く力の育成を急がなくてはならない。
★新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」は、体験活動とともに教科指導においても社会に順応できる力、社会で求められる資質・能力を育成する場と位置付けていく必要がある。いまこそ、校長が強いリーダーシップを発揮し、すべての教育活動にキャリア教育の視点を取り入れ、学校経営を実践しなくてはならないと考えている。
キャリア教育を充実させる学年経営と学年主任の役割
★キャリア教育の充実には、組織的な取組みが重要であると言われている。キャリア教育を実践していくうえで重要な役割を果たす「学級活動」、それを主に担うのは学年、学級担任である。その学年組織を機能的なものにし、生徒一人一人のキャリア発達を十分に促すために、学年主任はどのような学年経営を行えばよいのか。
★また、学校におけるキャリア教育に関する方針等への共通理解、教師の意識や指導力の向上、キャリア教育の質の向上を図るためにどのような方策が考えられるか、実践を紹介する。
内外リソース活用の工夫-学年主任として取り組んだ「貢献学習」の実践を通じて-
★キャリア教育の推進のためには、校内外のリソース(組織)活用が重要である。昨年度、所属する学年で、新しく考案・実施した学年行事の実践事例を通じて、学年主任としてキャリア教育の推進のために何ができるかを考える。
進路指導主任の職責と役割
★キャリア教育を推進するためには、学校組織内でキャリア教育に関する情報を教職員間で共有し、キャリア教育全体計画や年間指導計画を計画・実践・評価していくことが重要である。これらを実現するためには、進路指導主任が職責と役割を十分に認識し、校内でリーダーシップを発揮する必要がある。キャリア教育推進委員会や進路指導部等を機能させ、組織的なキャリア教育を実施できるよう、マネジメントする力が求められている。また、外部関係機関や家庭、地域と連携する外部折衝能力も求められている。そこで本稿では、キャリア教育を推進していくための進路指導主任の職責と役割について整理する。
校内外で連携して取り組む職場体験活動
★職場体験活動は、進路指導の中で中核となる行事である。地域や多くの大人とのかかわりを通じて、生徒のいっそうの成長が期待できる。また、各学年で取り組む進路学習の系統性を意識した指導は、生徒のキャリア形成に大いに関わる。
★職場体験活動の事前事後でとった生徒の意識調査を分析すると、働くことへの意識や学校生活への取組姿勢などについて、前向きな変容がみられた。こうした分析をふまえて、職場体験活動と道徳・特別活動・総合的な学習の時間との連携を視野に入れ、さらに教科指導でもキャリア教育の視点を意識して、横断的に教育活動全体でキャリア教育を推進する実践を行った。
特別に配慮を必要とする児童生徒に対するキャリア教育
★私の勤務する特別支援学級は、都内でもまだ数少ない自閉・情緒障害固定級である。知的に遅れがなく主に対人関係や学習面で通常の中学校生活を送るには不安を感じる生徒が入級し、小集団で学習している。
★特別支援学級では、基本的に通常の学級の教育活動に準ずるかたちで、教科指導をはじめとする教育活動を体験的な学習を多く取り入れながら実施している。
★本稿では、平成28年度入学生(男子5名、女子2名)への取組を時系列にそって紹介する。
今月のイチオシ!これだけは押さえたい学習評価(3)相対評価と目標準拠評価-目標準拠評価の現状の問題点と改善策
1目標準拠評価への期待と現実
●相対評価から目標準拠評価への全面的変更
平成十年学習指導要領に対応した指導要録(平成十三年改訂)で、小・中学校とも、また観点別評価・「評定」とも評価方法が全面的に、かつての「絶対評価を加味した相対評価」から目標準拠評価(いわゆる絶対評価)に変更されました。
変更の目的は、主に以下①~③のような、それまでの相対評価の問題点を改善することでした。なお相対評価とは、順位・偏差値等によって、一定の集団に対して個人を位置づけることにより、学習の結果を示す評価方法です。①努力し進歩しても、全体の成績が上がると、評価は低いままなのでやる気を失わせてしまう。②順位や偏差値では学習上の問題点がわからないので、形成的評価に用いることができない。③学習上の進歩があっても、その進歩を確認したり、示したりできない。
●目標準拠評価の現状=問題点
では現状は、期待したように、生徒の学習上の進歩を生徒・保護者・教師が確認できるようになっているでしょうか。たしかに、評定2が3になったり、観点別評価のBがAになったりすれば進歩したと受けとめられます。けれども、評価結果をこのような数字や記号(評定といいます。指導要録の「評定」欄とは別)で表すかぎり、たとえ目標準拠評価であってもそれ以上の情報は得られません。具体的に何が進歩なのか、問題点は何なのか、相対評価の時代と同様に分からないのです(例:3年のAと4年のBは進歩か?)。
2目標準拠評価が期待どおりいかないのはなぜか
目標準拠評価が当初の期待どおりにいっていない原因を理解するためには、そもそも目標準拠評価には2種類あることを理解する必要があります。
●グレイサー:目標準拠評価(クライテリオン準拠評価)
目標準拠評価を初めて提唱したのはR.グレイサーです(1963年)。彼は、集団に対する位置づけではなく、学習状況が一定の評価基準(criterion)の示す内容に該当するかどうかを判断して評価する、クライテリオン準拠評価(criterion referenced assessment)を提案しました。 しかし、その後「クライテリオンとは何か」について議論が起こりました。現在ではクライテリオン準拠評価には2つの評価方法があると考えられています。
●ポファムの提案:ドメイン準拠評価
評価対象の領域をドメイン(domain)といいます。ドメイン準拠評価では、このドメインは他のドメインと明確に区分されるものでなければならないと考えます(例:「江戸時代の主な出来事についての知識」)。ポファムは、クライテリオンとは、明確に定義されたドメインとカッティング・ポイントの組合せと考えました。テストで一定の正解数(カッティング・ポイントという、通常は点数で示される)以上ならば、該当のドメインの学習を習得したと判断します。ドメインは互いに独立しているので、「江戸時代の主な出来事…」のテスト結果は良好だったが「明治時代の主な出来事…」はよくなかったということは十分ありえます。現在多くの教師が行っている評価に照らして考えると、単元ごとの評価結果を収集したり一定の学習が終わったところで実施するペーパーテストの合計によって学期末・年度末の評価結果を出す点で、基本的にはドメイン準拠評価によっていると考えられます。
●サドラーの提案:スタンダード準拠評価
目標準拠評価の2つめの方法はスタンダード準拠評価です。これは、ドメイン準拠評価のように明確なドメインを設定できない場合の評価に適しています。「江戸時代の主な出来事」といえば試験範囲がある程度わかりますが、「歴史的な思考・判断・表現」では試験範囲を明確にできません。一般的に思考力や判断力などを評価する場合には、ドメイン準拠評価では評価できません。長期にわたる発達段階を設定して、この発達段階のどの段階にあるかを評価する必要があります。各発達段階の特徴を示す方法として、各段階を示す評価基準は、その主要な特徴を言語表現(スタンダード)で示すとともに、各段階に該当する生徒の実際の作品等(パフォーマンス)(評価事例集)を示して補完するのです。これがスタンダード準拠評価です。
●観点により適切な評価方法が異なることが理解されていない
以上のように、観点により適切な評価方法は違います。すなわち、「知識・技能」の観点はドメイン準拠評価が適しますが、「思考・判断・表現」の観点はスタンダード準拠評価が適するのです。しかしわが国では、この区別がされず、「思考・判断・表現」も暗黙裏にドメイン準拠評価を用いています。その証拠は、この観点のスタンダードも評価事例集(生徒の実際の作品集)も用意されていません。この観点で異なる学年間のAやBの関係がわからなくても疑問に思わないのも、ドメイン準拠評価を暗黙裡としているからです。これがせっかく目標準拠評価を導入したにもかかわらず、この観点で目標準拠評価が機能していない根本的原因です。
3目標準拠評価に必要な環境づくりを国はすべき
今後、最優先の作業として、「思考・判断・表現」の観点の評価に不可欠な、スタンダード準拠評価ができる土台づくり、つまり、観点別評価のAやBやCについて、何を意味するのか、長期的な発達段階を設定してその特徴を示す評価基準を設定するとともに、事例集(生徒の作品集)を用意しなければなりません。このことは、教師が長期・中期でどんな目標を立て、どう指導すべきかにも(、また生徒の学習の目標にも)深く関わります。例えば、国語で「書くこと」の進歩の様子は、こうした環境が整って初めて全国的に指導も評価もできるようになるのです。とはいえ、各学校が評価基準を作ることの苦労は評価基準表づくりで経験済みです。国レベルで評価基準の参考事例を充実して、各学校が使える程度のものを準備すべきです。
これらにより指導の多様性が奪われるという向きもありますが、現状ではそれは杞憂です。なぜなら、スタンダード準拠評価では評価基準自体かなり抽象的な言葉を用いており、その補完として1つの評価基準でも多様な学習活動の結果を用いた評価事例集があり、その結果、教師が学習活動を生徒の実態に合わせて工夫することを妨げないようになっているからです。
相対評価の問題点は1960年代から指摘されながら、指導要録がなかなか絶対評価に転換できなかったのは、絶対評価は教師の主観が強く入るため「総括的評価に求められる信頼性が低下する」という理由でした。総括的評価では信頼性はとても重要ですから、国は信頼性を高める複数の方策を講じるべきです。
連載
巻頭言/学校でのキャリア教育の管理・運営 | NPO日本教育カウンセラー協会相談役 池場 望 |
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「教師力」アップセミナー 子どもとともに成長する教師をめざして(7)小中連携-本当の意味で相互理解を図るための協同実践の実現を!- | 創価大学教職大学院准教授 大関 健道 |
QUを活用したPDCAサイクルで教育実践の向上をめざして(7)新学習指導要領における保幼小連携の取組-生活力を育成する保育園から学ぶ- | 早稲田大学教授 河村 茂雄 |
続・説明文・意見文を書くことの指導(7)家庭学習での書く指導-小学校 | 筑波大学附属小学校教諭 白坂洋一 |
木下是雄と「言語技術の会」ルネッサンス(6)教科書の内容(3)事実と意見の区別 | 文部科学省教科書調査官(体育) 渡辺哲司 |
「主体的・対話的で深い学び」を創る(4)算数を創るための「主体的・対話的で深い学び」~発想の源を問う~ | 東京学芸大学附属小金井小学校教諭 加固希支男 |
教育統計・測定入門(80)ニューラルテスト理論-得点パターンの適合性 | 法政大学教授 服部 環 |
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こうすればうまくいく!スペシフィックSGE(8)年間を見通したSGEの実践~「いのち輝きプロジェクト」を通して~ | 京都市立朱雀第一小学校長 林 まゆみ |
授業をみる・語る・研究する(6)授業スキルの分析①発話の速さと抑揚 | 京都市立朱雀第一小学校長 林 まゆみ |
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講座キャリア心理学-キャリア発達を支援する-(7)キャリア意思決定理論 | 労働政策研究・研修機構副統括研究員 下村英雄 |
本の紹介(5)『大学生・社会人のための言語技術トレーニング』① | 指導と評価編集部 「指導と評価」編集部 |