月刊誌 指導と評価

2006年 10月号
  1. 2006年 10月号 Vol.52-10 No.622  定価:450円
特集
人間関係力を高める
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特集

よりよい人間関係づくりができる子どもを育てる

文部科学省視学官  杉田 洋

★文部科学省が実施した各種調査によれば、保護者、教師が学校教育で身につけさせたいことの上位に「人間関係形成力」があげられている。また、子どもたちにとって「友達のこと」が、学校生活の楽しさや不満についての重要な要素となっている。

★中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会審議経過報告(平成18年2月)では、コミュニケーション力やよりよい人間関係をつくる力の育成の重要性を指摘している。

★人間関係形成力の育成については、文部科学省が指定する「伝え合う力を養う調査研究事業」において、国語、道徳、特別活動など各教科等の特質を生かした授業の工夫を研究課題としてあげている。

人間関係力の発達心理学

法政大学教授  渡辺 弥生

★人間関係力の芽は、生まれながらにして備えられていると考えられる。赤ちゃんは親を引きつけ自分にかかわらせようとその力を最大限に発揮している。しかし、将来、人として社会に適応していく力は育てていかなければならない。周囲の環境、特に子どもにかかわる人間の存在が重要である。

★自我の発達をサポートし、社会的ルールや善悪の判断を教え、他者の気持ちを理解できるように導いていく、社会化の機能を大人は果たしていかなければならない。人とかかわれば、そこでは対人葛藤がさけられないが、葛藤は人間関係力を育てるチャンスのときでもある。対人葛藤を解決する力こそ、教育現場で育まれるべきものであろう。

家庭で人間関係力を育てる   応答的な環境の中での成長を

東京聖徳大学教授  深谷 和子

★乳幼児期の「人間関係力」の育成は、そのスキルよりも人間関係力の「核」となる。人への愛や信頼、この世界を自分にとってあたたかくよきもの、と見るような世界観を作り出させることにその役割がある。やや成長した段階で、どのような社会性や人間関係力のスキルを子どもの中に育てようとしても、この「核」がなければその形成は難しい。

★最近の若者には、自分を「心が傷つきやすい」ととらえ、「取り越し苦労をする、他人の視線が気になる」とするものが多いが、これはここでいう「核」の形成が不十分であることを示唆している。また、子育てにおけるネグレクト傾向の広がりも、これと関連して憂慮される事態である。

★「人間関係力」の形成には、幼い時期から「応答的な環境」に子どもをおいて育てることが必要であろう。

人間関係力を育てる学級での取り組み

千葉大学教授  土田 雄一

★「人間関係力」とは「人とかかわる力」である。
1.対人関係を築く知識、2.コミュニケーション能力、3.感情の交流、4.協力体験がその基盤となる。

★小学校では遊びや家庭環境の変化などから、学校の授業や休み時間などでも人間関係力を育てる取り組みをする必要がある。学級活動・道徳の時間・総合的な学習の時間を活用し、プログラムを組んで計画的に進めるとよい。その参考となる三年生での取り組みと、五年生の「ストレスコーピング」の取り組みを紹介する。

★授業での取り組みは、いわば自動車教習所。本当の人間関係力は、休み時間や放課後に育つ。遊びの中に学びがある。集団遊びが子供たちの人間関係力を育てる。

人間関係力を育てる学級での取り組み

神奈川県逗子市教育研究所所長  鹿嶋 真弓

★思考が変われば感情が変わる。感情が変われば行動が変わる。行動が変われば人間関係が変わる。人間関係が変われば自分を取り巻く世界が変わる。

★ソーシャルスキル・トレーニングにより、口の利き方を少し変えるだけで人間関係も変わってくる。

★構成的グループ・エンカウンターにより、ルールとリレーションができる。

★学級開きからの2ヶ月間で、1年間の学級の雰囲気がほぼ決まってしまう。この時期にどのような人間関係作りを行うかが、その後の学級経営に影響と及ぼすことにもなる。

「かかわる力」と「社会性」で協働の学びを育てる

神奈川県相模原市立夢の丘小学校長  奥山 憲雄

★本校では開校以来、子供の実態をもとに、構内研修を通して、全員で学校作りに取り組んできた。そのキーワードが「協働の学び」である。

★協働の学びとは、一人ひとり異なる存在である子供たちが協力し、ともに学ぶことにより、新たな知識を獲得し、新たな世界を開き、新たな夢をつくりあげる活動ととらえている。

★協働の学びが成立するためには「かかわる力」と「社会性」が必要である。そのため、「なかよし」「コミュニケーション」という二つの新たな枠組みを設け、指導してきた。

★協働の学びを続けることにより、多くの成果が見られるようになってきた。

人間関係力を育てる学校での取り組み

埼玉県上尾市立西中学校長  清水 井一

★学校のなかの生徒指導や教育相談の課題解決には、大きな課題である「社会性を育てる」ことが考えられる。人間社会の中で生きる力を育成するためには、特にコミュニケーションにかかわる社会性を育てることが大切である。

★学校で大切な取り組みであるならば、教育課程の中に位置づけ、授業として展開する必要がある。具体的には、総合的な学習の時間などで、週1時間年間35時間実施した。

★1年から3年までの発達段階を踏まえた学習指導案を作成した(3年間で105時間)。学習指導案作成にあたっては、エンカウンターやアサーション、ソーシャルスキル・トレーニングなどのカウンセリング技法を活用した。

人間関係力を育てる市町村での取り組み   小・中一貫「潤いの時間」教育委員会

埼玉県さいたま市教育委員会

★人間関係をうまく築けない子供が増えている。さいたま市では、人間関係を構築する能力は後天的なものととらえ、「人間関係プログラム」を実施している。人間関係を構築するための基本的な技術(「相手の立場を尊重しつつ、自分の気持ち、考えなどを率直に、その場にふさわしい方法で表現すること」「相手の働きかけに対して適切に反応すること」など)を身に付けるための具体的な言語的スキル、非言語的スキルのトレーニングを小学3年から中学1年まで、人間関係が十分に育っていない各学期のはじめに6時間ずつ実施し、全教育活動においても強化を図る。

★児童生徒への確実な定着を図るには、家庭、地域との連携が不可欠である。

不登校問題と人間関係づくり学習

富山県朝日町立朝日中学校教諭  大坂 正也

★不登校(傾向)生徒の多くに「良好な人間関係を築けずに悩んでいる」傾向が見られる。また、一般の生徒も友達と遊ぶことが少なくなった現在、「ほどよい距離のとり方」を身に付けないままトラブルになることも少なくない。

★「中1ギャップ」の要因のひとつとして、子供たちの「人間関係」が大きく影響している。そのため、本校では1年生に対して、総合的な学習の時間に「人間関係作り」学習を位置づけている。

★「人間関係作り」学習では、学校行事などに関連させ、月に一度「自己理解」「他者理解」「協力関係」について学んでいる。

人間関係力を育てるプログラム

教育臨床研究機構理事長  中野 良顯

★千葉県の豊かな人間関係作り推進事業は、平成17年度から始まる3ヵ年プロジェクトで、中核となる「体系的指導プログラム」は教育臨床研究機構が開発する。

★プロジェクトの開発では、育てるべき能力を対人的やりとりのレベルのスキルによって操作的に定義する。

★「体系的指導プログラム」は、子供の発達段階に応じた指導案と、学習内容を定着し活用させるための教材からなる。カリキュラムは小学校から中学校まで各学年4回ずつで、平成19年度に小学校へ入学した児童は、中学校卒業までの9年間に36回の授業を受けることになる。

★授業はラーナー・フレンドリー(学習者に親切)な授業の7成分から構成される。

★プログラムの導入に当たっては、教育課程の柔軟な設計と運用が求められる。

連載

坪田耕三先生の基礎・基本を学ぶ小学校算数の授業づくり   「わかる」と「できる」-基礎・基本の考え方(4)   青山学院大学教授
坪田 耕三
教育評価の基礎・基本(7)   評価情報の提供ー通信簿 文教大学学園長・応用教育研究所所長
石田 恒好
授業をつくる(13)保健体育科「生きる力を育む授業と単元構成」 筑波大学附属中学校教諭
小山 浩
ペーパーテストで思考力・表現力を測る(5)   中学校英語(3)話す能力・書く能力 新潟大学教授
松沢 伸二
だんわしつ (財)応用教育研究所所長
辰野 千壽
ひとりごと 元公立中学校教諭
吉冨 久人
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